10月4日
1777年。モーツアルトは母と二人、パリへの旅の途中ミュンヘンに滞在しています。もう幾度目でしょうか、モーツアルトはこの地でも就職を選定候マクシミリアン三世ヨーゼフに直訴します。
「選定候閣下、私は既に3度イタリアへ参り、3つのオペラを書き、ボローニャのアカデミア会員になりました。そこでは試験を受けねばなりませんでしたが、多くのマエストロ達が4、5時間も苦労し汗を流す問題を、私は1時間で仕上げました。・・・(後略)」
「だがな、君、空席が無いのだよ・・・。」
「閣下に誓って申し上げますが、私は必ずやミュンヘンに栄誉をもたらせてご覧に入れます。」
「空席が無い事にはな・・・。」
選定候はこう言い残すと振り返りもせず立ち去ってしまったと言います。自信満々に候に取り入ろうとするモーツアルトの姿が目に見えるようです。このやりとりの約二ヶ月前の10月4日、母子が滞在した旅館ツム・シュヴァルツェン・アードラーの主人フランツ・ヨーゼフ・アルベルトの家で、家庭演奏会が開かれています。モーツアルトはクラヴィーアを弾き、さらにヴァイオリンを“まるで自分が全ヨーロッパで最大のヴァイオリニストであるかのように”弾いたと記録にあります。就職の答えを待つ落ち着かない日々のこうした得難いくつろぎの時間、モーツアルトは多いにサービス精神を発揮した事でしょう。得意満面な笑顔のモーツアルトがそこにはあったでしょうね。
もしもタイムマシンがあったなら、そんなモーツアルトの姿を垣間見たいものです。でも今の私達の耳には一体どんな風に聞こえるんだろう。ホントに上手なのかな。ピアノ程は弾けなかったかも・・・。そんな想像をたくましくするのは楽しいものです。夢が壊れない為にも、タイムマシンなんかできないで欲しいと正直なところ思います。でも・・・ああ、悩むなあ。
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